我々歯科技工士にとって鉤歯の重要性は頭では分かっていても、「鉤歯の再現」が患者さんや歯科診療室内においてどれだけ重要なことであるか痛感させていただいた症例です。
これまで、鉤歯の作り替えが必要になった場合、たった一本の鉤歯のために義歯まで作り直す必要に迫られたり、あるいは技工士が副印象などで新しく再現した鉤歯を義歯に合わせて先生がユニット上で何とか時間をかけて義歯に合うよう調整したりしていたと想像しています。本当に「鉤歯の再現」が可能であれば、先生が調整時間に費やされたり、患者さんがせっかく使い慣れた義歯を手放したり作り直したりしなくてもいいのにです。
今回の患者様は上顎右側4番の鉤歯を作り直すというものでした。以前お作りした鉤歯に問題はなかったということで、それに合わせて作った義歯を活かすためにもなんとか再現できないかという依頼です。
前回の鉤歯データと今回新しく撮り直した支台歯データとの合成をさせたCAD設計完了の鉤歯。
そもそも、コンピューターやCADソフトの都合で、合成そのものがバグを起こすと、過去の内面まで再現してしまったり、最悪な場合クラウンの完成すらできない時もあるため合成できたという点でまずはひと安心です。
ただ、よくマージン部を観察してみると、①が過去の鉤歯データから起こしたマージン、②が現在支台歯のマージン(補強幅が観察できます)であることが分かります。
結果として、ズレのあるマージンを支台歯模型上で削合、完成させて納品することができました。担当医からは、セット時の調整はほとんどなく義歯を装着できたというお話を伺うことができました。
いつでも「鉤歯の再現」ができるかどうかは今後さらに技工士によるCADの研究が必要かもしれませんが、このように過去の鉤歯のデーターがある場合は再現が可能であると言えます。今後患者様のカルテの一部として、鉤歯を意識した印象データーを蓄積していただければ、口腔内スキャナーを利用した新しい時代の鉤歯として恩恵を受けられる患者様も増えていくかもしれません。